nengoインタビュー

的場
今までに行かれたことのある場所で印象に残っている美しい町はありますか。
加藤 氏
以前INAXさんからの依頼で素材と色彩に特徴あるまちの調査を行ったのですが、古い街並みを維持しているという点では、愛知県の常滑、愛媛県の内子町、兵庫県の出石町が印象に残っています。いずれも伝統的な建築物と特徴ある意匠や素材が残る、風情あるまちなみでした。他には古いまちなみを残し活用しながら新しい街とうまく融合を図っている横浜、小樽、門司港なども、それぞれ本当に個性豊かなまちだと感じました。
的場
何が良かったのでしょうか。
加藤 氏
都市部や新しく開発されたまちではかつてあったまちの文脈が失われたり分断されたりする例が多い中、これらのまちはもともとその場所にある文化や地域性を大事にしています。その町にしかないもの、特有のものが大切にされている。また、横浜等ではただ古い建物を保存するだけでなく、公共の施設として活用するなど、新しく利便性の高いまちへの更新のされ方も優れていると感じました。
加藤幸枝氏
加藤幸枝氏
的場
加藤さんがもしも都道府県のトップである知事だとしたら、街つくりで何をなさいますか。
加藤 氏
色彩はトップたる役割ではないので、難しい質問ですが…。出来るだけ長くその土地で使ってきた色を再現する、周辺にある地域固有のものの色を生かす、ということを大切にして行きたいと考えます。1970年代以降、発色の良い建材が数多く出現し、色の氾濫が見られるようになりました。

かつてはどこのまちにもあった“色使いの作法”が失われてしまったと感じています。以前ならまちで目についたのは、軒先の草花や商店のサインである暖簾や着物、自動車や公共交通の車両程度でしたが、大阪万博以後色材選択の自由度が増したことにより、賑やかさや華やかさ、さらに目立つための色彩による演出に皆が引き寄せられ、色の使い方が乱れてきたのだと思います。
的場
現在いくつかの大学で講義を行われていますが、いかがですか。
加藤 氏
高校の美術の授業が選択制になり、色を勉強したり触れたりする機会が益々減っていると聞きます。大学の建築学科で色彩の授業を専門的に扱っている学校もほとんどありません。そのような状況の中で建築を学ぶ学生に色を使いこなせ、というのはとても難しいことです。

ですから大学の講義では学科・学部を問わず、まず色彩の基礎、これは色の見え方の特性や色を数値化して客観的に判定するといったことですが、そうした基礎の部分をしっかりと伝えるようにしています。色はとかく個人の嗜好や感覚的なものと捉えられがちですが、調和や土地の色・素材という概念をもっと広く一般的なものにして行きたいと考えています。
的場
街をつくる人達に色の能力がないとどうしようもないですね。
まともな法律も作れないでしょうし。これから街つくりはどうして行けば良いのでしょうか。
加藤 氏
規制を厳しくすれば良好なまちなみが形成できるとは考えていませんが、もっと地域の個性が生かせるようなきめ細かな対応が求められていると感じます。
色彩に関しては徐々に景観計画の中で色彩基準を持つ自治体が増えているので、少しずつではありますが良い方向に向かっているのは間違いないと思います。
的場
港区の景観アドバイザーをされているようですが、どのようなお仕事ですか。
加藤 氏
届け出前の事前協議に対して、専門家としての意見を区の担当者へお伝えしています。これは確認申請・許可申請等の60日前までに事前協議書を提出しなければならないという法律に基づくものです。
外観の色彩については仕上げやマンセル値等を記載することが義務付けられており、協議書の内容が区の景観計画に沿ったものであるかどうかを建築家の方や植栽の専門家の方々と協議を行っています。
的場
そういう動きをもっと早くから行政が動いていれば、今の街並みも変わっていたのでしょうね。
加藤 氏
届け出をする事業者と行政の間での調整ですから、一般にはあまり知られていないのかも知れませんが、制度としては20年以上前からあります。平成22年12月1日現在で、日本全国の景観行政団体は472にも昇りますので、平成16年の景観法の施行を機に、よいまちなみを形成していこうという動きは益々活発になると考えています。

敷地の中で法律に合ってさえいればどんなものを建設してもいいというような建設する側の論理に対し、地域の景観という観点が抜け落ちているということの問題を地域住民が放ってはおかない時代になりつつあるのではないでしょうか。
的場
加藤さんのお仕事をする上でのベースになるお考えをよろしければお聞きしたいです。
加藤 氏
環境色彩デザインという仕事について、私は4つの視点をもっています。一つ目は色・素材のごく当たり前の調和を論理的に明示すること、二つ目は色を使った積極的な演出を試みること、三つ目は新しい面的な開発時の調整役としての役割、四つ目は歴史あるまちなみ等の保存・再生に色彩を役立てること、の四点です。

ただ、色を使うことはそう簡単なことではなく、形や場に馴染まない色は必ず飽きるという側面を持っています。ですから、周辺に良い環境、例えば豊かな自然景観があれば馴染ませるとか、汚れを出来るだけ目立たせない配慮など、相当引き算をして行かなくてはならないことが多いです。
的場
なるほど!大変勉強になります。加藤さんにはnengoの会合にも是非ご参加いただきたいですね。
加藤 氏
喜んで。ぜひ環境色彩デザインの方法論をお役立て頂きたいと思います。
的場
有難うございます!よろしくお願いいたします。本日は有難うございました。
カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役/チーフカラリスト 加藤幸枝氏

本日のインタビューは 色や街つくりの話は勿論ですが、会社経営のヒントもいただけたインタビューとなりました。大変有意義な時間を過ごすことができました。これから加藤さんの活躍の場は益々広くなることでしょう。皆さんご期待ください。

カラープランニングコーポレーションクリマ・取締役/チーフカラリスト 加藤 幸枝 氏

武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科卒。
大学在学中より日本における環境色彩計画の第一人者、吉田愼悟氏に師事。
トータルな色彩調和の取れた空間・環境づくりを目標に、建築の内外装色 彩計画を数多く手掛けている。
武蔵野美術大学、静岡文化芸術大学非常勤講師。
府中景観審議会委員、港区景観アドバイザーも務める。

CLIMAT HP/http://www.climat-color.net/